愛猫の身体を撫でているとき、お腹に小さなしこり(結節)を見つけたことはありませんか? 「まだ1cmもない小さなものだから様子を見よう」と判断してしまいがちですが、猫のお腹にできるしこりには注意が必要です。今回は、猫の乳腺腫瘍の特徴やご家庭でのチェック方法、そして実際の症例を交えながら、なぜ適切な切除手術が必要なのかについて解説します。
1. 猫の乳腺腫瘍は「80%以上が悪性」
猫の乳腺に発生するしこりは、その80%以上が悪性腫瘍(乳腺癌)で占められています。犬の場合は良性と悪性が半々程度ですが、猫では良性の乳腺腫瘍はごく稀です。
避妊手術による高い予防効果
猫の乳腺腫瘍の発生には性ホルモンが深く関与しています。
- 生後6ヶ月未満で避妊手術を行った場合:発生率を91%低下
- 7〜12ヶ月未満で行った場合:発生率を86%低下
未避妊の猫や高齢になってから避妊した猫では、発症リスクが高くなるため特に注意深い観察が必要です。

2. 【症例紹介】1cm未満の小さな結節でもリンパ節転移が見つかったケース
「小さいうちは大丈夫」と思われがちな乳腺腫瘍ですが、実際の症例をご紹介します。
【症例概要】
患者:スコティッシュフォールド(6歳11か月・未避妊雌)
主訴:左側の第2乳腺に、直径1cm未満の小さなしこり(結節)が複数認められた。
治療:左側乳腺の一括(en-bloc)全切除術を実施。
病理検査結果:摘出した腋窩(脇の下)リンパ節への転移が確認された。
現在の経過:術後補助療法として、抗がん剤(ドキソルビシン)による全身化学療法を実施中。

この症例が教えてくれる重要なポイント
この猫ちゃんの場合、しこりの大きさ自体は1cm未満と非常に小型でした。しかし、病理検査の結果、すでに脇の下の腋窩リンパ節へ転移していたのです。
猫の乳腺癌は非常に悪性度が高く、初期の段階であっても20〜42%の確率で近くのリンパ節へ転移します。しこり部分だけを切り取る簡単な手術では、脇の下のリンパ節転移を見逃し、体内にがん細胞を残してしまうことになります。
「乳腺組織と所属リンパ節を一括で切除するen-bloc手術」を行ったからこそ、隠れていたリンパ節転移を正確に発見し、次の適切な治療(ドキソルビシンによる抗がん剤治療)へ繋げることができました。
3. なぜ「しこりだけ」の切除ではなく「en-bloc一括切除」が必要なのか?
猫の乳腺癌では、腫瘍のある乳腺だけでなく、頭側の腋窩(脇の下)リンパ節から尾側の鼠径(股)リンパ節までを、乳腺組織および繋がっているリンパ管ごと一括(en-bloc)で切除する片側全切除術が強く勧められます。
- 顕微鏡レベルの広がりを防ぐ:見た目には変化がない正常な乳腺組織やリンパ管であっても、すでに顕微鏡レベルでがん細胞が侵入している可能性が高いためです。
- 再発率の低下:広範囲を一括切除することで、取り残しによる局所再発のリスクを抑え、無再発期間を延長させることができます。
4. ご家庭でできる「乳がんチェックマッサージ」
猫には、脇の下から後ろ足の付け根にかけて左右4対(合計8個)の乳腺が存在します。普段のスキンシップの際に、全乳腺を1つずつ優しく触って確認してみましょう。
| チェック項目 | 状態と触感の目安 |
|---|---|
| 正常な状態 | 平らで柔らかく、周囲の脂肪組織に馴染んでいる |
| 注意が必要な状態 | パチンコ玉や小豆のように「硬い」「丸くゴリゴリ・コロコロしている」 |
この記事のまとめ
- 猫の乳腺腫瘍は80%以上が悪性(乳腺癌)であり、早期の避妊手術で発生リスクを大幅に低下させられる
- 1cm未満の小さな結節であっても、すでにリンパ節へ転移しているケースがある
- 取り残しや再発を防ぐため、乳腺組織と所属リンパ節を一括切除する「en-bloc手術」が重要
- 日頃からお腹周りを優しく触り、硬いコロコロした感触がないかチェックする習慣をつけよう
